コーチングのセンスがないのかなと悩んでいます #36

最終更新日:2021年2月9日

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谷口コーチに質問する

── 今日は、「ザ・コーチTV」の視聴者の方からいただいた質問に谷口さんに直接お答えていただきたいと思います。

マミーさんからのご質問です。

こんにちは。オーストラリア在住の主婦です。

ダイエットコーチを目指しており、現在とある日本のコーチングスクールでオンライン受講をしています。

そのスクールでは、まずクライアントさんになりたい姿を描いてもらう目標設定のパートがとても大事ということを教えていただいているのですが、私はいつもそこで最初からつまずいてしまいます。

そのためクラスでも練習中に言葉が出なくなってしまい、講師の口から出た
「思考を言語化することが大切よね?」
という言葉を、自分がその能力が低いと言われたように受け止めてしまったりして、怖くて授業に出ることができなくなっています。

受講者同士で練習なども自由にできるので積極的に参加するようにはしているのですが、今度はクライアント役として挙げたテーマが練習用としては不適切だとコーチ役の方から言われてしまい、なんだか私にはコーチングのセンスがないのかなと思ったりしています。

今のスクールで学んでいるストラクチャーは非常に基本的で有効だということはわかっているのですが、出だしから人の気持ちを盛り上げる作業はハードルが高く、他のやり方ではダメなのでしょうか?

このままチャレンジを続けた方がいいのか悩んでいます。

アドバイスをいただけたら幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

というご質問です。

谷口:ステキですね。何かいろんなことが思い起こされますね。

まず思い出したのが、僕も2003年からコーチングの勉強を始めたんですけど、やはり(マミーさんと)同じように、僕も受講生だったんですね。

そこに先生といわれる、クラスコーチという先輩コーチがいたんですが、いっぱい練習するわけですよ。そうすると同じように、「谷口さんは語彙が少ないね。」って言われたんですね。

コーチングの専門用語で「アクノリッジ」っていうのがあります。承認する。モチベーション上げるための一つの方法なんですけど、僕は「いいですね!」を連呼してたらしいんです。僕本人は気付いてないんですけど。

そうすると、「谷口さんのアクノリッジの言葉は『いいですね!』しかないよ。」って言われた。「語彙が少ない」って言われて、マミーさんと同じように、「グサッ!」みたいに思ったんですね。

何か物事を習得する時に最初から上手な人っていないですよね?

── そうですね。

谷口:コーチングも一つの能力だったり知識だとすると、未熟から入るんですね。

どうしても挫折だったり、上手くいかない苦しさだったり、辛さだったり、失敗した時の後悔だったり、いっぱい最初はあるんですよね。スポーツでも何でもそうじゃないですか。

僕はその時どうしたかっていうと、それをエネルギーに変えたんですね。

人からのアドバイスを
自己成長のためのきっかけやヒントにする

谷口:ちょっと負けず嫌いなところが僕はあるので、「だったら言葉を増やせばいいんでしょ?」って思って辞書魔になった。

そこから辞書を読むようになって、「あぁ、言葉ってすごい!こんなに豊富なんだ!おもしろいんだ!」っていう世界に入って、今17~8年経って、僕は非常に言葉を豊富に持てるようになったんです。

「谷口さんはこれしかないね。」って言われたのがきっかけだったわけです。

そう考えると、その時ある程度上手くいってたら、僕は辞書を読みだすっていう行動はたぶんしなかったと思うんですね。

だからこの先輩、先生コーチからの言葉は、自分の今後の成長のための一つのきっかけやヒントになるっていう意味付けにすることも可能かなと、まず一つ思いました。

それと、センスがないという言葉がありましたよね?

──「今度はクライアント役として挙げたテーマが、練習用としては不適切だとコーチ役の方から言われてしまい、なんだか私にはコーチングのセンスがないのかなと思ったりしています。」

谷口:マミーさんはコーチやっていますから、マミーさんにとってもこのことはすごくヒントになるし、コーチングを勉強している人もこれを見てくれていたら、すごくヒントになる。

「コーチングのセンスがない」っていう一節だったと思うんですけど、こういうのを僕たちは「一般化」っていう。

その表現「一般化」になっていませんか?

谷口:「コーチングのセンスがない」っていうのは一つのビリーフ、考えだったりするんですけど、「コーチングのセンスがない」っていうと、行動変容とかチャレンジとか自己成長につながるような思考になりにくくないですか?

もうどうしようもない!! みたいな感じになりますよね?

「一般化」っていうのは、一括りにしちゃってるって感じなんですけど、これを僕たち(コーチ)は「明確化」とか「具体化」していく。

その目的は、クライアントさんの思考が開放されて、行動に繋がっていって、それによって自分の可能性の開発をして、そして更には対話を通じてゴールに向かうこと。そういう支援をコーチはしていく。

この「一般化」と、もう一つ代表的なのに「二極化」っていうのがある。良いか悪いか。

「一般化」とか「二極化」の思考に入ってると、思考の柔軟性とか可能性って、止まる、固まる、動かなくなる感じしません?

―― そうですね、本当にキューっと狭くなっちゃうようなイメージですよね。

谷口:これ以上どうしようもないみたいな感じなんですけれど、これを柔軟な思考や、発展的な思考にすることができるのがコーチなんですね。

ではこのマミーさんの「センスがない」っていう言葉を、他の言葉に置き換えてみましょうか。

「センスがない」を他の言葉に置き換えてみる

谷口:僕たちが、何か専門的なものの専門家になるため、よく僕が言う「プロ」になるためには、5つの要素を備えればいい。

1.その専門領域の知識、もしくは情報。

2.その専門領域のスキルや能力、技術。

3.その専門領域の道具、ツール。

4.その専門領域に携わった実績や経験。

5.専門家として世の中に、役に立つ、サービスを提供できる、貢献できるような、人としての人格。

国際コーチ連盟のコアコンピテンシーには、この5つについて具体的に書いてある。

では戻りますね。コーチングのセンスがないっていうと、もう元も子もないっていうか、もうどうしようもないっていう考えになるけど、たとえば「コーチングっていう専門領域の知識がまだ不十分である」という表現に変えたら?動けそうでしょ?

── そうですね。不十分なら増やしたらいい!って道が開けたように思います。

谷口:ですよね。もしくは「不足している」とか、「ある部分の情報をまだ持ち得てない」、みたいにしたら?

「センスがない」と同じようなこと言ってるんだけど、思考の柔軟性や行動の促進につながるように、具体的にしたらいいじゃないですか。

さっきの、「思考を言語化することが大切よね?」っていうの、これもよくわかんない。

でもこれを、ありたい姿というか、「目標設定が大事っていうふうに言われています。ではありたい姿や目標設定を効果的にするための知識や能力やツールが増えたら変わります。」にする。「センス」にすると分からない。そういうことなんですね。

「言葉が出なくなります。」っていうのも書いてあったかな?

頭で考えてることを言語化するっていうのは、すごい高い能力です。

僕はどうしているかっていうと、「ありたい姿を明確にするときにはこの質問をする」っていう道具に変えたんです。思考を言語化するっていうんじゃなくって、ありたい姿を明確にするときにはこういう質問をする、質問文っていうツールをいっぱい作ったんです。

「質問文」というツールをいっぱい作る

谷口:「ありたい姿を明確にする」ってどういうことかという知識があって、「ありたい姿を明確にするためのコーチングの質問文」が何10個かあって、それを使ってコーチングをしていったら、今よりうんと変わってくるんです。

── やれることがたくさんあるなって思えますね。

谷口:もしくは情報が少なかったら、仲間と勉強会をやっているって言ってましたよね?勉強会でありたい姿を明確にしているコーチングをしている人の質問文を記録したっていいですよね?

僕は散々しました。人の質問文はパクりまくったんですけど(笑)。

「あっ、この質問うまいな~」とか、「この言葉ステキだな~」って思ったらずーっと取っておく。そうしていったらツール増えますね。情報も増えます。今度それを使って勉強会で練習したら、経験や実績が増えるじゃないですか。

「一般化」したものを、柔軟な思考や行動につなげるためにはどうすればいいか?っていうのを僕たちプロはしてるんです。じゃあセンスをどうやって高めましょうか?とか、磨きましょうか?とかって、すごくわかりにくい。

── 漠然としていてわからないです。

谷口:ですよね。この文章から推測すると、非常に一般化している。向いてる向いてないとか、センスがないとか、上手くできない、なんていうのも一般化なんですね。

でも、「上手くできない」っていう言葉を、「知識がまだ不足している」にしたら変わりますよね?「上手くできない」っていうのを「スキルが未熟である」「ツールがまだ整っていない」に変えたら行動につながる。

なので僕がアドバイスするとしたら、みんなこういう道を通ってますよっていうので安心して下さい、っていうのが一つ。

ただ、上手くいかなかったときにどう捉えて、次どんなアクションにしていくかによって全然変わる。

上手くいかなかったときに、向いてないって言って他にいって、上手くいかないから向いてない、また他に行って上手くいかないから向いてない、って言ってたら、たぶん一生向いてるものには出会えない。それが一つかな。

もう一つ、「ストラクチャーはすごく有効なんだけど」みたいな文章なかったかな?

── 「今のスクールで学んでいるストラクチャーは非常に基本的で有効だということはわかるのですが、出だしから人の気持ちを盛り上げる作業はハードルが高く、他のやり方ではダメなのでしょうか?」

谷口:「今のスクールで学んでいるストラクチャー(構造)は有効なんですが」っていう文章も微妙に一般化なんです。

「今スクールで学んでいるストラクチャーはコーチングの一つの方法であるのは知っています。他に有効な方法はないでしょうか?」って考えるのと、「ストラクチャーしかない」みたいな思い込みがすごく文章から聞こえてくるんですね。

「これしかない!」という思い込みをなくそう

谷口:「構造」はコーチングの中のわずかなパーツでしかない。コーチングの戦略とか戦術として、ストラクチャーという構造通りに会話を作っていくっていう方法が一つ。Aを聞いてBを聞いてCを聞いてDになるっていうのが構造なんです。

でも、僕がコーチしていると、それ(ストラクチャー)を使ってコーチングをする場面もあれば、それを全く使わないでコーチングをする場面はヤマのようにあるんです。

なので有効な手段の一つであるし、代表的な手段の一つであるって捉えて、「他には何があるんだろう?」って考えると、もっと楽に、思考は柔軟になるし、視野は広がっていくような気がします。

それから、「最初からモチベーションを上げるのがハードルが高い」って書いてあったかな?

── 「出だしから人の気持ちを盛り上げる作業はハードルが高く、他のやり方ではダメなのでしょうか?」

谷口:他のやり方はいっぱいあるっていうことと、

「出だしから人の気持ちを盛り上げる・・・」これは、マミーさんのモチベーションを上げることなのか、クライアントさんの出だしからモチベーションを上げることなのか、どちらなのかな?と思って聞いてたんですけど、

仮説として、出だしからクライアントさんのモチベーションを上げるハードルが高く、っていうふうにすると、まずこれも、この方コーチングの練習しているんですね。

そうすると、コーチングの1回の練習という場面で、練習相手のクライアントさんのモチベーションを出だしからグッと上げていくのがハードルが高いって言ってるのか、契約をしているクライアントさんとのことを言っているのか。

契約していると、プロセスがコーチングにはあるんですね。

契約してオリエンテーションやってゴールを設定してフォローをいわゆるコーチングをして、何か月後かに査定をしていって、また次のゴールを設定してっていうと、そのフォローセッションのときの、出だしでモチベーションを上げることを言ってるのか、

コーチングの契約の最初の時点で「じゃあ行きましょう!」っていうモチベーションを出だしで上げるのか、それによって全然違うんだけど。

それ全部解説したら6か月の僕の講座みたいになっちゃうんですね。

コーチングはテーラーメイド
一つの方法しかないと思わないで!

谷口:安心してほしいのは、モチベーションを上げてほしいと思っているクライアントさんばかりじゃないです。僕なんて人にモチベーション上げてもらおうなんて思わないから。

たぶん、いくつかの練習をやっていて、こうじゃない、ああじゃない、こうじゃない。なにか正解をマミーさんは探しているような気がするんですね。

じゃなくて、僕たちはテーラーメイドっていう言葉があるように、多様性というか、簡単にクライアントさんに合わせることもできるし、クライアントさんのテーマや向かっている先に合わせてもできる。

動いていくと、クライアントさんって必ずモチベーションやエネルギーが変化していく。その変化している状態にもテーラーメイドで合わせていくことができる。

ということは、この「出だしからモチベーションを上げるっていうコーチングをする」っていうのは、いろんなコーチングの中の一つ、一場面でしかなくて、それが絶対必要で、それがこの方法しかないっていうような限定的なものではないような気がするんだけどなぁ。

戻ると、最初の頃はエビデンス、証明するデータ数が少ないんですね。マミーさんも学んでいて練習中だとすると、たぶんコーチングのセッションも100回とか、もっと少ないかもしれない。

でも今みたいにこうやって、これが上手くいかない、これは違う、これじゃないんだ、これは上手くいくんだ、これは有効なんだ、これを試してみたらもっとこうなるんだ、みたいに、

1000回検証して、もっといったら10000回検証したら、エビデンスっていう証明、往々にしてこういう時にはこうなる、というデータが蓄積されるんじゃないかと思う。僕はそうしてきました。

だから最初は上手くいかない、簡単に言うと打率が悪いんですね。

僕がある程度の、「あ、やっぱりそうだな。これはこのパターンだな。」「あ、やっぱりこういう時にはこうすると有効なんだな。」っていう確率が上がってきたのは、やり続けたからかな。

なので、今いっぱいこのエビデンスを備えているし、データを蓄積している。

能力・ツール・知識・情報・経験値を積み重ねている状態だと思うと、センス一言で片づけなくてもいいんじゃないかなぁ、みたいな気がするけどね。

この人がやりたいダイエットコーチというのが、なぜ自分はダイエットコーチを目指して、誰のどんなダイエットをサポートすることで何を成したいのかっていう、そこに明確なビジョンや価値観があれば、僕はがんばってやり続けてほしいな、とは思います。答えになったかな?

── 行動につながるアドバイスになって、よろこんで下さっていると思います。

谷口:よかったです。

── 知らない間に私たちは、言葉で自分の思っていることを一般化してたり二極化してたり、それで道を狭くしてるんですね。谷口さんのアドバイスから、「センス」で片づけてはいけないというふうに思いました。

谷口:「センス」で片づけると、どうしようもないとか、にっちもさっちもいかないみたいな、もう袋小路に入っちゃうみたいな(笑)

── 自分に何かのセンスがないなと思った時には一般化になってないか?っていうのを今度からは自分に気づかせたいと思います。

谷口:よくね、営業マンは一般化って利用するんです。売れない営業マンって自分は「営業に向いてない」って言うんですよ。これ一般化ですからね。

そうじゃなくて、能力がまだ不十分で、知識が足りてなくて、「セールスに必要な道具」に変えたら、多分トップセールスマンに比べると何かが違うはずなんです。向いてる向いてないじゃなくて。そう考えたらやれることはいっぱいある。

── そうですね。やれることいっぱいあるなって思えますね。

谷口:いっぱいありますよ!

── 行動につなげて行けます。谷口さんありがとうございます。大変勉強になりました。

谷口:よかったです!

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