発達障害のある方にコーチングをする時の注意点とは? #37

最終更新日:2021年2月9日

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谷口コーチに質問する

── 今日は「ザ・コーチTV」の視聴者の方からいただいた質問に谷口さんに直接お答えいただきたいと思います。

あさこんさんからのご質問です。

先日コーチングの練習会で、自閉症と診断された方とコーチングの相互セッションの練習をしました。

その際に、「そもそも障害に対するその捉え方はどうなのだろうか?」という、自分自身が特別支援を専門にしている職業としての疑問がたくさん生まれながらコーチ役をしていました。

国際コーチ連盟ではなく、独自でコーチングの資格を認定している団体の規定の中に

「疾病を持っている人を除いて、いかなるクライアントにもコーチングができるようになるのが到達目標」という意味合いの規定がありました。

本題ですが、コーチングを発達障害のある人や、子どもに対して行う上で、気をつけなければいけない点や、そもそもコーチングを行っていいものか疑問に思い、質問をしました。

よろしければ、谷口コーチの意見を聞かせていただければと思います。

というご質問なのですが、いかがでしょうか?

谷口:いやー、深いですね。どこからいこうかな。

まず、最後に「コーチングをしてもいいでしょうか?」ということがありましたね。

これはずごく気をつけた方がいいなと思っていて、僕たちはコーチングの専門家ですけど、治療とか治癒とか、そういったものの専門家ではないんですね。

なので、この対象の人の、自閉症の方とか発達障害の方の状況がよくわからないので、自閉症とか発達障害を改善するとか、治るものなのかもわからないですけど、それをテーマにするコーチングは、僕の個人的な意見とするとしない方がいいと思う。専門知識がないので。

治癒や治療ができるのかは知らないんですけど、それを目的とするのはしない方がいいというのがあります。

それは、ちゃんと専門的な知識や専門的なノウハウを備えてないからですね。

コーチングの目的について理解しておく

谷口:次に、これも正確には知識を持ってないという前提で視聴者の方には聞いてほしいんですけど、自閉症や発達障害の方も社会の中で何か夢を描いたり、自分を発揮しているっていうのは、見聞きする気がするんです。

中には、飛びぬけた才能があってそれが開花して、他の人とは全く違う力を発揮している人って結構いるんじゃないかな。

すごいピアニストになったりとか、絵を描くすばらしさを発揮したりとか、あることに対してすごく長けているっていうのはあるんじゃないかな。それは個性だから。

だから、その自閉症の方が、コーチングっていうものをちゃんと理解していて、自分はこういう夢があるんだと。それを叶えたいので、あなたをパートナーに選んであなたの支援を受けたいっていう状況が、その方と作れるんであれば、それはちょっと興味深いかな。

自閉症とか発達障害を一つの個性だとすると、その個性的なクライアントさんの夢を支援する、は僕だったらコーチングするかもしれない。

ただ、その状況を治すとか、治癒を目的とすると、それは専門家の話なので、僕はプロとしたらそれには関わらないで、専門家に相談して下さい、になるかな。

コーチングはパートナーシップ
悩みや問題を解決するものではない

あと、コーチングを習ってたり勉強すると、混同してるのがよくあるんです。

どういうことかっていうと、あくまでも僕たちが国際コーチ連盟の基準に沿ってコーチングをしている、というのは、社会的に「コーチ」という一つの専門家としての信用や信頼や、社会的地位や責任を国際的に明確にして担保しようとしてるんですね。

そこでいうコーチングっていうのは一言で言うと、「クライアントと共にゴールに向かうことを支援する“パートナーシップ”である。」ってくくってるんです。

それと往々にして、勘違いするのは、クライアントの今の悩みを解決する、コーチングの会話をするのがコーチングだと思ってるんです。

この、コーチングのスキルを使って目の前のあるテーマ・課題をどうにかしようとするっていうことと、クライアントのゴールに向かう、共にゴールに向かう関係なんだと。

だから、関係でいうと、コアコンピテンシーにも書いてあるんですけど、「契約行為」なんです。

あなたとわたしは、こういう立場とこういう責任でお互い契約して、パートナーとして(手を)握りましょうと。だから企業でいうと、提携の契約を結ぶみたいな。

半年後、1年後にこういうゴールをお互いのゴールとして目指していきましょう。その時に、私はプロの専門家としてこういう支援をあなたにします、あなたはこういう責任を果たしてください、それで向かいましょう、という関係性なんですね。

ここが混同していると分からなくなる。

なので、個性的な自閉症とか発達障害が、大多数の方から見ると特別な個性を持っている。

ただ、それは個性であって、その人がコーチングっていうものが何かをちゃんと理解して、コーチと自分との役割と責任も理解できて、それに関して責任を果たすっていう同意をして、契約をして、そして共通のゴールとしてあなたと向かって行きたいって言ったらいいんですけど、

この自閉症とか発達障害の方の、何か問題を解決してあげようとして関わっていくと、それはパートナーシップじゃない。

なので、そこが区別されるといいかなっていう気がします。

僕は、コーチングはパートナーシップっていう定義をしてるんですが、コーチング的会話を僕はコーチングセッションっていう言い方をする。

会話、セッションをする。ジャムセッションみたいなやりとりをするんですが、それも国際コーチ連盟のコアコンピテンシーでは、「対話を通じてゴールに向かう」っていっている。

だから、一つの方法なんです、対話を通じてるって。コーチングセッションって方法なんです。

そのコーチングセッションで、目の前の人の問題を解決しようとしてるとすると、それは関係性ではなくて問題解決の一つの手段でしかない。

そういう時に僕はどうしてるかというと、「コーチングを活用する」っていう言い方をします。

問題解決の一つの手段としてコーチングの会話を活用する

谷口:普段の関係性、僕たちにはいっぱいあるでしょ?人間関係とか課題とか。

例えば、子供と親っていうのは契約関係や提携関係にはならないです。

でも、子どもの夢の実現とか能力の発揮とかスポーツの支援で、親がコーチングの会話を活用することはできるんです。

例えば、病院で患者さんの治療を、お医者さんが医療という専門領域にプラス、コーチングの能力や知識があったら、医療にコーチングを活用するわけです。ただ契約関係じゃない。

だから、多くの場面では、お医者さんが医療の現場でコーチングを活用する、学校の先生がコーチングを習って子供の成長支援や子供の育成にコーチングを上手く活用する、スポーツの指導者が選手の成長支援や育成にコーチングを活用する、っていうのはヤマのようにある。

なので、この方が言ってるのは、(コーチングを)行っていいかどうかだっけ?

── 気をつけなければいけない点と、そもそもコーチングを行っていいのかな?という疑問があるということですね。

谷口:なので、この方が、さっき言った、特別な個性を持っている自閉症の方の夢の実現をパートナーとして「その夢を僕も一緒にやるよ」って言って、手を結んでいくんだったら、それはできそうな気がする。

ただ、この自閉症を治したくてって悩んでいる時に、契約行為もしないし、承諾もとらないのにコーチングはしない方がいい。

家族にいきなり質問すると嫌われるもんね。僕は娘に「お父さん、コーチングしないで!」とか言われたから。そこはお互いの同意があるっていうことです。

どちらにしても承諾と同意は必要!

谷口:なので、この方の質問でいうと、自閉症の方発達障害の方に対して、

「僕がコーチングのスキルを使って、あなたの思考の開放だったり、柔軟な思考だったり、行動の促進を手伝うことはできるけど、それは必要としてる?」とか、「欲している?」とか聞いて、「ぜひお願いしたい!」って言ったら、「じゃあ質問していいかな?」と言ってする分にはいいかもしれないな。

ちゃんとそこに承諾と同意があるか?

じゃないと、非常に刺激的な、ある意味鋭い会話がそこで交わされるので、すごく微妙な関係にはなるかもしれない。

まず、その人の何についてコーチングするか。夢や自己実現や自分の何か能力を発揮して何か成し遂げたいことを、お互いにコーチ・クライアントという関係を、パートナーシップが築けるという承諾の元に、契約行為で同じようにゴールに向かう、そういうパートナーシップを築くか。

もし、その方が悩んでいて、それをただ解決の支援をするため、柔軟な思考や、自分でできる行動の支援をするために、コーチング的な対話をしていくのか、それによって違ってくるかな。

いずれにしろ、承諾と同意は必要だと思う。

あと、もう一つ思い出しました。

僕、一度やったことがあるんですね。ちょっと心理的な悩みをお持ちの方で、カウンセリングを受けているという方がいたんです。

僕はまだその時未熟だったので「あーそうなんですね。」って言って、その方にはやっぱり何かやりたいこと、自分もコーチになりたいとかがあったんですね。

ただし、「あなたの状態が、コーチングをしてもいい状態なのかどうか、僕にはわからないので、カウンセラーか臨床心理士に、コーチを受けてこういうことをやろうと思うけれど、コーチングを受けても私は大丈夫か?って聞いて来てください。」って言いました。

その専門家に、コーチングを受けていいか、コーチを付けて自分はこういう会話をしても大丈夫かっていうのを確認してきて、OKが出たら、僕はあなたの夢の支援をしますっていうのはやりました。

そんなとこかな。これで答えになってるかな。

── これからコーチとして活躍するために、今コーチングの練習をされていらっしゃる方もたくさんいて、もちろんプロとして現場に出られてもそうなんですけれども、いろんな方にお会いしていくので、本当にいろんな状況の中でコーチを続けていかれるんですね。その時々にいろんな判断をしていくんだなっていうのを改めて感じました。

谷口:あとね、今思い浮かんだ。この人、一番最初の文章で、自閉症の方との、診断を受けた人とのコーチング練習中とありました。自分はそういった専門知識があるのかな?

── そうですね、ご自身が特別支援を専門にしている職業をされていて、疑問が生まれながらコーチ役をしてました、とおっしゃってます。

谷口:これはよくあるんです。結局相手のことに関する、クライアントのことに関する何らかの知識や経験を持っている場合ですね。

これはすごくやっぱりコーチングをする時に、何ていうのかな、スイッチを切り替えるみたいな感じが必要になります。

専門家としてアドバイスする時とコーチングする時、その切り替え方とは?

谷口:それで、思い出したことがあって、それはあるマネージャーさんだったかな?この方はコーチングを活用する側なんですね。だって部下とマネージャーって契約関係でも何でもないもんね。

上司と部下の上下関係だったり、役割の違いなんですけど、部下の目標達成や仕事の成功の支援のために、普通の日常会話にコーチングやコーチ的な会話をしてるわけなんですね。

でも、部下が悩みや相談を持ち掛けると、自分の経験上、どうしても答えが浮かんじゃうんだって、こうした方がいいよって。でも、それは相手にとって有益とは限らないわけですね。

答えを与えるということは、自分で考えるチャンスを奪ってしまうから、悩んでたんだって。

「答えは言いたくない、でも、相手の問題が分かるー」とかって。その方は、今はコーチに徹する、今はマネージャーで相談に乗ってアドバイスするっていうのを、どうやって切り替えようかって考えてた。

でも、なかなか(切り替えが)できないんで、結局どうしたかというと、ビジネスマンだから腕時計してるんですね。その腕時計を、今から自分はコーチに徹するんだから相手の代わりに答えは考えないっていうときに、この時計を反対にはめて、じゃあ今から僕はコーチするねってやったんですって。

そしたら、いつもはめてる左だと全然違和感がないんですけど、ここ(右)にはめると常にここに違和感っていう意識が集中するんだって。

この状態のときに、僕はコーチであるっていう。これは「アンカー」っていう言い方もしたりするんですけどね。ここに「アンカー」を置く。そうすると、そこに意識が向くっていう。

その方は、今は専門家ではなくてコーチに徹する、っていうスイッチを作ったんですね。

だからこの方も、今は専門領域のアドバイス、今はコーチに徹するっていう、何かアンカーを作るっていうのも一つ。

── コーチをしていて、それが自分の専門の内容になってくると、そこに対して専門家だからこそ意識が向いてしまうということはありがちなんですね。

クライアントさんのリソースを活用する

谷口:そうですね。「アンカーを置く」っていうのも一つですし、これもコーチングでは「リソースを活用する」っていう言い方をするんですけど、

その方が何かを解決したかったり、行動に移したかったりするときに、「何らかのアイデアや情報や、そういうことを一度経験した人があなたの周りにいないですか?」「アイデアを持っていたり、知識を持ってたいり、アドバイスをしてくれたり、実体験がある人いないですか?」って、これよく聞く質問なんです。

そしたら、その人は忘れてるんですね。自分の周りにそういうリソース=資源があるっていうのを。「あっ、そういえばあの人知ってるかも!」って言ったら、「じゃあ聞いてみます?」が行動になる。相談してみますが。

そして、その「あの人」が目の前にもいるんです。

「僕はそのことについて経験があるし、僕なりの解決方法はある。もしあなたが、僕を一つのリソースとして、僕の経験やアイデアを知りたかったら提供するけど、必要?もしくは聞きたい?」って聞くわけです。

そしたら、僕のアイデアもクライアントさんに取ってみると一つの情報源になるんです。

だからどうしても言いたい時はそういう言い方をする。「僕、リソースなんだけど!」みたいに。

── コーチもリソースの一つなんですね。

谷口:「僕使う?」みたいにね。それも一つですし、あと、「疾病を持っている人を除くいかなるクライアントもコーチングできるようになる」だったかな?

── 「国際コーチ連盟ではなく、独自でコーチングの資格を認定している団体の既定の中に、『疾病を持っている人を除いて、いかなるクライアントにもコーチングができるようになるのが到達目的』という意味合いの規定がありました」って書かれています。

谷口:ある程度ですね。これももう少し言葉を足した方がいいような気がします。

「いかなるクライアントも」を明確に表現すると?

谷口:例えば「いかなる・・・」っていうのは、「どのような立場や、どのような経歴や世界にいる人から依頼されたゴールへの支援をコーチングできる」なら意味合いわかります。

なぜかっていうと、コーチはただその柔軟な思考や、自らの能力開発で、公私ともにドラマチックな人生を描いていく、それは対話を通じてゴールに向かうプロセス、っていうような書き方をしてるんです。

「いかなる人も」っていうと、悩んでる人も、困ってる人も、何か入っちゃいそうな気がするじゃないですか。

でも、関係性でパートナーシップっていうのは、お互い契約をするので、相手がコーチングを望んでない人をコーチングできるか?っていうとできない。

なので、まず前提としては、「コーチングを望んでいるいかなる人も」ならわかる。

「コーチングの支援を活用している、どのような立場や、どのような人であっても」、っていうのだったらコーチングができる。でも「いかなる人も」って言ったら全部入っちゃう。

だから、そこの言葉をもう少し明確にすると、例えばお医者さんのコーチング僕できますし、政治家のコーチングできるし、経営者のコーチングできるし、スポーツ選手のコーチングできる。

ただ、それはお互いパートナーシップを築けて、お互いに責任を果たすっていうことに同意をし、承諾をし、こういう条件で契約しましょうっていうふうに(手を)握って、いつそれの成果を査定しましょうって(手を)握っていけば、ゴールが違うだけで、ですよね?

僕は、コーチングする、向こうはゴールに向かって柔軟な思考と行動を促していって、それを対話を通じて、はできる。ただ、先方が望んでないのにできない。だからここはそういう意味合いで言ってるんだと思う。

その「いかなるクライアント」っていうのも、さっき言った自閉症の方や発達障害の方も入るんですか?っていう言い方をたぶんしてるんだと思うので、

さっきの自閉症の方も発達障害の方も、自ら何らかの自分の能力を発揮して、こういうゴールを達成したいとその人が思っていて、コーチングを活用して、ちゃんとコーチの契約をし、お互いに責任を果たすという、承諾と同意をしていればできる、っていう意味合いかも知れない。

自閉症の方や発達障害の方が、そういうことを望んでないのに、余計なお世話でコーチング的会話で相手の問題を解決しようとするのは、それはコーチのエゴかも知れない。自分がしたい、解決してあげたい。ちょっと文章から気になったのはそこかな?

── このご質問から、いろんな側面を谷口さんが見つけてくださって、そのコーチを目指す中でみなさんが突き当たるような場面を想定してお答えいただいて、今コーチを目指していらっしゃる方にとっては渡りに船なお話をいただけたと思います。

谷口:よかったです。

── よろこんでいただけると思います。

谷口:でも、安心してほしいのは、僕も最初こういうのヤマのように悩んだからっていうことだよね。いいんだろうか?って。

── そうやっていろんな経験をされて、経験を積んで、エビデンスもたくさん積み重ねて、みなさんコーチを・・・

谷口:(コーチを)していって下さい!

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