谷口コーチはどうやって出版したの?ザ・コーチシリーズなどの出版秘話 #94

最終更新日:2022年9月27日

―― 今回のテーマは出版についてです。

谷口コーチはこれまでに『ザ・コーチ-最高の自分に出会える「目標の達人ノート」』をはじめ8冊の本を出版され、累計では10万部以上の発行をされていると思います。

特に、先程申し上げた2009年にプレジデント社から出版された『ザ・コーチ』は、2016年には小学館文庫からさらに文庫版としても出版され、出版からもう10年以上経っていますが、今もなお売れ続けているベストセラー本だというふうに聞いております。

そんな谷口コーチですが、実は文章を書くことが苦手で、谷口コーチ自身が本を出版できるなんて思ってもみなかった、というような趣旨のお話を以前にされていてたと思うんですね。

『ザ・コーチ』の本の内容からはとても文章が苦手だというふうには想像できないんですけども、本を出版できると思ってなかった谷口コーチが、どんなきっかけで出版を決意され、さらに商業出版という狭き門を突破されて出版にまで至ることができたのか、また出版される前と後でどんな変化があったのか、ぜひ教えてください。

谷口:深いな~これ(笑)。どこからいこうかな。

まず、やっぱり言葉ってすごく丁寧に使った方が良いなと思うのが一つあって、僕は文章を書くのが苦手って言ってるんですが、

でも、本当の意味は、文章を手で書く、Wordで打つでもいいですけど、これを続けるのが苦手。文章を書くのがじゃなくてね。

同じ事をずーっと続けるのが苦手。苦行なんですね。変な話、一日写経してるみたいな感じ。もう何か修行してるんじゃないかみたいな、ということなんです。

文章の長いもの、例えば小説とか本を書くって、何万字とか何百ページとかあるじゃないですか。スタートから最後まで完成させるのって多分すごい苦行なんですよ。それが苦手なんですね。

文章書くのがどうのこうのって言うと、正しい文章を書くのは多分苦手というか得意じゃない。

なぜなら、学校の国語は大嫌いだったから。だって正しさを求められるでしょ?前提はテストだから。

だから、学校では勉強は全然好きじゃなかったし、読書感想文なんて、もうもう頭クラクラしてました。

僕、高校の時だったか中学の時だったかの読書感想文は、読まずに目次だけ見て、きっとこんなストーリーだろうなと思って感想書いたら全然違ってたっていうことありましたけど。

だから前提はそういうの。そういうのはつまんないからイヤなんですね。

なぜ本を書きたいと思ったのか

谷口:どうやって本を書くか。最初は動機、何で本を書きたいと思ったのか?からいきましょうか。

いろんな動機があるんだなぁ。書こう、書きたいって強く思ったのが2007年で、(本が)世に出たのが2009年なんですね。

2007年の頃って僕、結構激動なんです。

2003年に起業でコーチ独立して、4年目とか5年目ぐらいなんですね。仕事は軌道に乗ってるんですけど、2007年の2月に先妻の卵巣がんが見つかって、2007年から僕『虎プロ』っていうのを始めたんです。

だから、ビジネスが次のステージに上がろうとしている時にライフイベントが起きたんですね。

その時に、いろいろ思うようになって、ある意味、生きるとか死ぬとか。余命宣告されるわけですね、5年生存率3割って。

すごい残酷だと思いません?5年生存率3割って7割死ぬってことですよ。でも生存率3割っていうと生きる方に期待しちゃうじゃないですか。

その時に、生きるとか人生とか、ちょっと考えだすんですね。自分の使命とか価値とか考えだすわけです。それまではがむしゃらに行ってたんですけどね。

僕は、そもそも何で今この仕事をして、何に自分の命を使いたいんだろうって考えるわけですね。

僕の価値は、創造=クリエイティブ、ものを創造して創り出す。そしてそれで世の中や人に影響していく。で、それが貢献できる、世の中の役に立つ。そして自由である、ということなんですが、だからコーチをしているし、コーチを始めたんですね。

その時に、もっと多くの人に自分の使命を果たせないか?と思うようになったんですね。

そしたら、まずパーソナルコーチって1対1ですから、貢献や影響って一人ですよね。

企業研修もやりだしました。例えば研修に来る人が20人だとすると、僕の今日の一日の使命、ミッションは20人に届けられますね。

もっと多くの人に、と思うじゃないですか。本、良くない?

著者になって著書を持てば、書店などを通じて1万人とか10万人に届きますよね。ということは、本はさらに僕のミッションを果たせる、と思うようになったんですね。

次に、その頃にはライフイベントがいっぱいあったんです。子どものこともあるし親のこともあるし先妻のこともあるし、といった時に、終わりをすごく意識したんです。自分の人生が終わるってことに。

その時に「本って後世に残るな」と思ったんです。死んだ後も。実はそれを考えたのが、今ここに本を用意してあるんですけど、

『あなたに成功をもたらす人生の選択』オグ・マンディーノ著

僕がサラリーマンの時に、このままの人生でいいのかなぁって悩んでいた時に、コーチングを勉強しよう、コーチになろうと思うきっかけを作ってくれた本なんです。

この本が営業で回ってた本屋さんの文庫本のコーナーにこうやって並んでいた。平積みじゃないですよ。背だけを見て何で僕はこれを手に取ったのかって、やっぱりこの『人生の選択』というタイトルなんですよね。このまま行くか、自分で船をこぎ出すかみたいに。

オグ・マンディーノさんと言うんですけど、ちょっと後ろを紹介しようかな。

著者 オグ・マンディーノ

1923年、ボストン生まれ。

高校卒業後、軍隊に入り、生命保険会社に入り、1965年に雑誌の編集長になり、その会社の代表を務め、その傍ら『この世で最も偉大なセールスマン』(伝説の本といわれている)を執筆し、文壇デビューし、次々とベストセラーを世に出して世界でも多くの読者を持つ自己啓発小説家である。

また、米国屈指の講演家として活躍したんですが、1996年に突然他界。生涯で19冊の本を執筆し、世界22か国で3006万部が売れる。いまだに着実に読者を増やし続けている。

「俺はこれを目指したい!」と思ったんです。

僕もいろんな仕事をし、セールスもやり、研修をやり、講演もやりだして、次の僕の目指すのはこれだと。

だから、ビジネス書より自己啓発小説家になろうと。そしたら「すごい!死して尚自分のミッションを果たせる」っていう。

この人も死んだ後も売れ続けてるんです。「僕はこれを目指そう!」と思って書こうと。そしてそれを遺書みたいに書こうと思ったんです。子どもが読んでくれたらいいし、みたいに。

動機はそれです。自分の使命を果たすために、1対1、1対20ではなくて、それは1対10万なのか。

だから、最初から本を書く時はミリオンを狙った。100万部。オグ・マンディーノは3600万部ですからとてつもないですけれど。

僕の使命は、創造し、影響し、貢献し、自由である。

そして自己啓発小説は、自分でストーリーを紡ぎだすので、創造的であり、これで影響、人の心に響く、影響力があって、そして役に立って、自分で自由に創造できる。

なので、「これを書いてくれ」って言われた本じゃない、「これを書きたい」っていう本なんですよ。書いてくれと依頼される本って面白くないですよ。不自由だから。

売れる本じゃなくて、書きたい本を書く。こういうのがきっかけでした。

なぜ苦手なのに本が出版できたのか

谷口:では、なぜ苦手なのにできたか?という話をしましょうか。

なぜできたかというと、僕は一番最初に『親子実践会話術』という本を書いたんですけど、その時の編集者はバクさんっていう人なんですね。

その人が言ってくれて覚えてるのが、まず「世の中にゼロから生まれるものはないんですよ」っていうことです。

すべて編集なんです。」「ほう」と思って。2003年の時です。

だから、「編集者っていうのは、常にあるものとあるものを工夫して組み合わせたら別なものを作るっていうのが編集なんです」って言ってね。「だから編集って面白いんですよ!」と。

「へぇー、あるものとあるものかぁ。そう言われると…」と思ったのは、

僕は料理人なんですが、全然新しいもの作ってないですよ。全部、すでにある料理とか素材と別なものを組み合わせて新しいものを作っていくのが料理なんですね。料理って編集だと思ったんです。

文章も編集だっていうことは、ゼロから生まなくていいんですよね。

で、その時から僕は何をしているかと言うと、ちょっと持ってきたんですけど、ここにはカードが入ってるんですね。ここにメッセージとか書いてあるんですよ。ワンセンテンス。

何か本を読んだりとか人の講演に行くと、このセンテンスとかこの言葉いいなと思うの、あるじゃないですか。そこだけ抜き取るんです。

よく本を読んだら線を引く人いますね。わかんない。ノートにまとめる人いるんですよね。それ編集できないんですよ。

こうやってカードにしてこれ(カードケース)がひとまとめ。これが3つも4つもあるんですね。

僕は、本を読んだり人の講演を聞きに行ったら、この言い方は良いな、この言葉カッコいいな、と思うものをこうやって抜いておくんです。

このようにいろいろと書いておく。ということは、すでにあったやつです。

誰かが言ったカッコいい言葉。カードが100枚あったら、その人はその一言を言ったけど、別な人が違う一言を言って、100人の人が違う言葉を言って、100良い言葉が並んでたら、並べ替えて文章にしたら僕の言葉になっちゃうんですよ。わかります?

ゼロから作らないってことです。徹底的にパクる。僕はこれの天才。料理人だから得意なんですよ。文章を書き続けるのは苦行。でも、編集は好き。

昔からそういうふうに、ちょっと工夫したり、人と変わったことやるのが好きで、

例えばプラモデル。もう完成できるようにキットが入っていいるじゃないですか。例えば自動車のプラモデル。1個がスポーツカーで、もう1個が軍用車。

2つ買ってきて1個作ったら面白くないですか?

―― その発想はなかったですけど素晴らしい!

谷口:ちっちゃい頃にそういうのをやってました。こっちのこれとこっちのこれをくっつけると面白くない?みたいなの。

そういうのを、小学校に行って模型好きな子と「俺、こんなのやった!」とか「これ面白くない?」とか。

スポーツカーと軍用車くっつけたら面白い車ができて面白いじゃないですか。

でも、ゼロから作ってないですよ。売ってんだもん、キットで。

―― でも全く新しいものですよね。

谷口:全く新しい。これもそうだし、料理もそうだし、世の中にあるものって編集力だ、ということを当時の編集者の人に教えてもらって、「なるほど!」と思いました。

文章は俺が作んなくていい。すでにあるものを組み合わせて加工すればいい。だから僕の本って全部パクリなんですよ。でもうまく編集してるから僕の本になってるわけでしょ?

世の中にある成功哲学って、過去に全部言われてることです。いかにも自分の言葉のように言ってる人というのは編集してるだけです。だから僕の本は全部編集です。

そしたら変わったんですよ。「書こう」と思わないで「編集しよう」と思うと出版はラクです。

書こうと思わない。編集ということはまず集めればいいわけでしょ?材料を。だから僕はこんなのをヤマのように集めてる。セミナー創る時も研修やる時も本を書く時もこれを。

イメージはね、こうやってあるじゃないですか。これをバーッと見ていって、「これおもしろい」「あ、これおもしろい」「これおもしろい」と抜き出す。

何百とあるものを無造作に入れてる中から、今日のアウトプットはこの言葉がいいな、と思ってバーッと出したら、あとは並べ替える。そうすると僕の言葉になる。ただそれを打つのがめんどくさい。

でも、それを打ちながら、この言い回しもっとこうならとか、ちょっと入れ替えたらとか、この一行をこっちに持ってきたらっていうのが編集作業なんです。それがめんどくさい。

ただ、それをやることによっていい本になるんですけどね。

そう考えると、本を書くって簡単。これは苦行だけど。これで答えになってるかな?

本を出版して変わったこととは?

谷口:まず、やっぱり当初の目的は、僕の価値を表す。創造的で、それで影響して、役に立って貢献できて自由である。

それは本を通じて、本が僕の価値を届けてくれた。だから、僕は知らないけど僕の本を通じて僕を知ってくれる人がヤマのように増えたわけですよ。

僕は、人生ってどういう人と出会って、どういう人と時間を交差させるかっていうイメージなんですね。

別々に歩いてきた人生がどこかで交点を結んで、時々ちょっと、今僕も若松さんも、歩いてきてぶつかって一緒に歩いていって、また離れていくじゃないですか。

この量と質だなって思ってるんですけど、それがすっごく豊かになりました。

だから、いろんな人と本を通じて触れ合えてるというか、人生の接点を設けられていて、時々セミナーとか僕の講座に来てくれた人が、

「谷口さんの『ザ・コーチ』に出会って・・・」と言われると、もう感無量になるんですよ。「あ、そこであなたと初めて会ったのね」みたいにね。

そういう意味で言うと、僕は人との出会いの質と量が人生の豊かさの量と質を決める要素の一つであると思ってるので、すごく豊かになりましたね

で、もう一つ変わったことは、

その2003年バクさんから編集者から言われたことの一つに、「谷口さん、著者になったら公人だからね!」って言われたんです。「変なことしないでね」って言われたんですね。公の人、著者ってね。

「公の人になりますからね。変なことしないでください。」「変なことってなんですか?」「変なことです!」みたいな。

だけど、それからやっぱり、いつも公の人だっていう意識はしています

買い物するときも、電車に乗る時も、レストランでご飯を食べる時も、旅館に行ってチェックインする時も、いつも公の人であろうと思うと、背筋を伸ばすというか、いつもお天道様が見てるなと思うと、

じゃあ、見てないからゴミ捨てていいのかとかさ、見て無ければ悪いことしていいのかっていうのを、「いや、見てる」っていうふうに思うと、

いつもこう、背筋を伸ばして、誰に見られても恥ずかしくないように生きていこうと思うと、なんかすごくこう、清い生き方が少しできるようになってるかなっていうのが一つと、

もちろんビジネス的には、本が自分の代わりに人に会いに行ってくれてるので、ビジネスチャンスがすっごい増えてます。本から上がる収益なんてたかが知れてますから、それに代わるいろんな恩恵は手に入ってるかな。

これが、出版される後で変わったこと。

それとね、人間って面白いんですけど、インプットしてる時よりアウトプットしてる時の方が学習するんですよ。

ということは、僕は本に、僕はこれがすごくいいと思うってことを書いてるわけですね、目標についてとか時間についてとか。

ということは、書いて世に出したからこそ、よりそれを良いと思って実践してます。書かないより。

だから、より自分がいいと思うことを、より実践し学び探求してる感じはしますね。

―― 相乗効果という感じですね。

谷口:あります!あります!

―― 素晴らしい!

谷口:だから言っておきます。文章を書くのは簡単です。

書かなきゃいい。順列、組み合わせですから、材料を集めて編集すればいい。書き続けるのは僕にとっては苦行だけどね。

だから、いい言葉や文章の収集家になったらいいんじゃないでしょうか。

―― きっと今日のお話を聞いて、私も本を書こうと思う方が増えたんじゃないかなと思います。ありがとうございます。

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