【人の話を聞く②】「聞く能力」を磨く方法 #28
―― 今、「理想的な聞き方」についてお聞きしてるのですが、
一つ、教えてもらいながら感じたのは、たった数十分の間で「聞く」ということはこういうことなんだっていうことを、私たち聞いている側にものすごくわかりやすく、こんなに上手に教えて下されるのは、
やっぱり谷口さんがプロコーチでいらっしゃるということに絶対関係あると思うんですね。
谷口:あります、あります!
―― コーチングの技術として、「聞く」っていうことに関してのトレーニングをされてこられたっていうのはありますか?
谷口:しますね。すごく勉強してなくてもすごく上手な人っています。
これは生まれながらって言うよりも、生まれた後の経験によって、というのもあるんです。
これはどういう人かと言うと、僕たちは「ミラーニューロン」=模倣する、写し取るっていうのを持ってます。
例えば、鳥でいうと、ヒナって飛べないですよね。でも、巣の中でず~っと親が飛んでるのを見てるわけです。
そうすると、それが擦り込まれて、「生きてくためにはこうするんだな」っていうのを写っていくわけですよね。
だから、それで飛ぶようになるんですけど、自分が生きていくために習得しなければいけないものを、自分の親だったり、先に生まれている人から「写し取る」ということを僕たちはやるんです。
人が生きていくために写し取るものとは?
谷口:コミュニケーションっていうのは、人間が生きていく上で一番重要な能力なんです。
コミュニケーションが遮断されると人間って死ぬらしいんですけどね。
なので、子どもが生きていくために親から何を覚えるかって言ったら、コミュニケーションを覚えるんですよ。
―― コミュニケーションを覚えていくんですね。
谷口:そうでしょ?しゃべろうとするじゃないですか。バァバァバァとか、アーブーブーとか。
遺伝子じゃないんです。
だって、純粋な日本人と日本人のご両親から生まれて、ただ、生まれたのが例えばアメリカで、両親が英語をずっとしゃべっていたら、その日本人の子どもって日本語しゃべれないじゃないですか?英語をしゃべりますよね。
外国の遺伝子を持っている子が、日本で生まれたら、見た目は外国人でも日本語ペラペラで、変な大阪弁しゃべったりしますよね。見た目外国人なのに「英語しゃべれまへん!」みたいな。
だから、自分の周りにあったコミュニケーションを写すんですね。写し取る。
僕には娘が2人いるんですけど、娘が小っちゃい頃、もうホントにね、カミさんが何人もいる感じって分かります?同じトーン、同じ言い方で、「パパこれ以上飲むな!」って言うんですよ(笑)。
だから、カミさんが3人も4人もいる感じがする。これは完全に写し取ってるんですね。女性として、どういう言い方を男にするのかを。
話を戻すと、ということは、小さい時から、親や周りの大人や学校の先生にいいコミュニケーションをしてもらった、自分の話を、主張や、考えや、願望を、いっぱい聞いてもらったっていう体験を積んでいる子は、その聞き方が写るんで、聞き上手になるんです。
聞き上手な人はいっぱい、いい聞き方をされた人。こういう人は練習しなくても上手くなるんですね。
これ余談なんですけど、僕コーチになった時、下の娘や上の娘はまだ小学生中学生だったかな?家で(コーチングの)練習すると、「へぇ~」とかうなずいたりする。なので、うちの娘、うなずきだけは上手くなりました。「写るんだな~」みたいな。これが一つですね。
どうすれば上手くなるかって言うと、大人になってから意識的に上手くなろうと思ったら、プロに聞いてもらう経験をいっぱい積むことですね。
プロコーチに聞いてもらう経験をいっぱい積む
谷口:だから、僕たちコーチは、「コーチになりたければ、まずコーチを付けなさい。」って言うんです。
なぜかというと、特にトップコーチを付けた方がいいんです。だって、プロフェッショナルのリスナーなわけでしょ?
本当に、お金が取れる聞き方のできる人に聞いてもらうと、良かったら録音すればいいじゃないですか。
最初はただ聞いてもらうだけで、「あぁ、こう聞くんだ。」みたいなのが、聞いてもらえば聞いてもらうほど、それが自分の聞き方に変わっていく。
だから、僕なんか本当にコーチになりたての頃は、人にコーチングを教えてる人、をコーチに雇うわけです。
上手くいかない人って、自分よりちょっと先を歩いてるコーチを雇う。
それってまだ未熟な人でしょ?ミラーニューロンを最大活用したければ、トップレベルの聞き方ができる人にコーチをしてもらえばいい。
それがまず写っていくっていうことですね。これが一つ。
それと、相手って、理解してほしいとか、共感してほしいとか、いろいろ望んでいるわけですね。
じゃあ、自分が言いたいことってあるよね?感情でも、主張でも、考えでも。自分が言いたいことを完璧に言語化できる?
―― いや~それがね~できたらどんなにいいだろうって思いますよ(笑)
谷口:ね!池上彰さん、すごくわかりやすく話す人、は、大分自分の考えを言語化するのはトップレベルだと思うけど、それでもなかなか普通の人は、自分の考えや言いたいことを言語化できないんですよ。
聞き手の能力あげるとしたら、聞き手の言語力を上げといた方がいいです。
言語力を上げる
谷口:どういうことかって言うと、お医者さんに例えましょうか?
お医者さんは患者さんの話を聞くから聞き手ですね?もし、患者さんがお医者さんだったら、自分が言いたいことを専門用語で言い表わす能力は結構高いですよね?
でも、5歳の子どもだったら、お医者さんに「自分のどこがどうなって、どうなってこうなんですよ」っていうの、言える?
―― 絶対言えないですよね。ただ「痛い」としか言えない。
谷口:言えないよね?「痛い!」って言ったら、例えば「のどが痛い?それとも胸が痛い?それともおへそのあたりが痛い?それともお腹の下の方が痛いかな?」とか、「表の方が痛い?中の方が痛い?背中の方が痛い?」とかいうのもありますよね。
そうすると、「どんどんどんって叩かれるように痛い?ビリビリするように痛い?」って聞いたら選べるじゃないですか。「あっ、ビリビリ!」とか。
っていうことは、言葉が豊富なのは聞き手の方なんです。
―― そうですね。そのビリビリを引き出すまでに、いっぱいの言葉で聞き出していけるということですね、受け取り手の先生が。
谷口:「どんなふうに痛い?」って聞いても言えないんだから。
僕がコーチになりたての頃最初やったのは、やっぱり言葉、語彙が少なかったんですね。
先輩コーチから言われたんです。「谷口さん、言葉が少ない」って。
その時、悔しくて僕は辞書魔になった。岩波国語辞典をず~っと読んでたんです。
聞き手が言葉が豊富であれば、相手が言いたいことを、「これ?」「これ?」「これ?」って出せますよね?聞き手の方から。そうすると話し手は選べばいいだけ。
「それ!」って。そうすると、「この人は自分の事よくわかってくれた!」って思うわけです。
話し手は、自分の考えや、望みや、ニーズや、感情を、上手く言葉に表せることができない。でも受け取ってほしい、分かってほしい、理解してほしい。
だったら、受け手側の方が、その状態を表わす言葉を豊富に持っていれば、あとは「多分これかな?」って思って並べたら、「それ!」って答えが返ってくる。これで練習ができるようになりますね。
まず、とにかく、優秀な聞き手に聞いてもらう経験をいっぱい積む。ミラーニューロンでそれは自分に移されていく。
次、受け手の方が、まず言葉をいっぱい豊富に自分の中に持っておく。そうすると、相手が言いたいことを手伝うことができるんですね。これが一つ。
4つのレベルの「問い」を持つ
谷口:さらに、「話を聞く」時に、僕はどうしてるかって言うと、自分の頭の中にアンテナを立てて聞いてるんです。
なぜかっていうと、僕は脳の力を最大に発掘しようとしてるんですけど、聞こうと思っても聞けないんですね。
でも、自分に「問い」を持ってると、脳ってキャッチアップするんですよ。
―― 自分に「問い」を持ってると、脳がキャッチアップする。教えてください。
谷口:どういうふうにしてるか?と言うと、手元の紙でもいいから、ピラミッド、正三角形を書いて4段に分けてください。
『人が話を聞いている時に聞くレベル』なんですけどね。
一番下が「相手が言っていること」、2段目が「言わんとしていること」、3段目が「言えないこと」、4段目が「本人も気付いてないこと」、これがレベルなんですね。
聞く能力の未熟者というか、初級者は、「何て言ってるんだろう」って聞いてるんです。
―― 音として言葉としてキャッチできる部分だけをってことですね。
谷口:そうそう。自分に問いかけてるんですね、「何て言ってるんだろう?」って。
でも、ちょっと上級者になると、「言わんとすることは何だろう?」って自分に問い掛けながら聞いてる。「言ってることはこれだけど、言わんとすることはこうじゃないか?」なんですね。
僕はこれ、セールスの時に身に付けたんですけど、クレーマーの言ってることを聞いたらクレームって解決しないんです。言わんとすることを聞いてあげないと。
言ってるのは、怒ってるんです。でも、言わんとすることは「早く直して欲しい!」って言ってるんですね。
怒ってると「すいません、すいません」って答えになる。
でも、言わんとすることは「早く直してほしい!」と聞いたら、「お困りですよね?まず一旦代替品でこれを使っておいてください。その間に修理しますから。」って言うと、「ありがとう!」になる。
怒ってる(と聞く)から、「すいません、すいません」って言うから、クレームはもっと大きくなる。
2段目は「言わんとすることは何だろう?」
ここからさらに上級レベルになります。
「この人が上手く言えないことは何だろう?」あとは、こういう聞き方もあるんです。「今言わないでおこうとしていることは何だろう?」って問いかける。
そうすると、ノンバーバルに意識が向くんです。声のトーンとか動作とか態度とか目の向け方とか。「あ、これは本心じゃないな」とか。
最後は「この人が自分でも気づいてないことは何なんだろうか?」って、問いかけて聞いてるんですね。
これが、実は、国際コーチ連盟の試験でいうと、言ってることを聞いてるだけでもACCは受かる。
「言わんとしてることは何だろう?」下から2番目でPCC受かるかな。ACCとPCCってわりと初級だから。
―― そうですよね。今のお話を聞いていると。
谷口:そのPCCプロフェッショナルとマスターの間がすごくかけ離れてるんですよ。
なので、マスターはその2段目より上、3段目、4段目を聞けないと、マスターにはなれないんですね。
ここが圧倒的な差になるかな。
マスターには何千時間っていうコーチング時間が必要だっていうのは、この上の聞き取る能力を上げられているかどうかなんです。これって実践でしかできないんです。