【コーチングとは?】マスターコーチが全体像を解説 #55
―― コーチングスクールでコーチングを学んでいても、「コーチングの全体像がよくわからない」とか、「コーチングに対する理解がいまいちふわっとしていて、モヤモヤしている」という声をよく聞きます。
傾聴とか質問や承認などのコーチングのスキルは知っているけど、コーチングの全体像や構造を体系的には理解できていないという方のために、コーチングとはどういったプロセスで行われるものなのか、その全体像を教えていただけないでしょうか?
谷口:まず「コーチングとは?」ということと、コーチングの構成というか、コーチングはどのように成り立っているか、進めていくかということ、この2つについて説明しようと思います。
「コーチングとは何なのか」を明確にする
谷口:まず「コーチング」ですね。これは「コーチ+ing」なんです。コーチをしていくっていうことなんですが、どういうことかというと、元々の「コーチ」の語源は「馬車」という意味なんですね。
昔、人類は歩いて移動していましたよね?どこかに行きたい、あそこへ行きたい、海を見たい、狩りに行きたい、なんでもいいですけど、目的地というのがあって、そこへ向かって一生懸命歩いてたんですけど、それを、もっと楽に早く目的地まで到達できるように乗り物を作ったんですね。
歩いていくより馬車に乗った方が早いよね?楽だし。つまり、その人が行きたいところへ、より早く、より楽に、より高い所へ行けるように支援するものがコーチなんですね。
当事者と言ったらいいかな?僕たちはクライアントという言い方をするんですけど、ある人が夢やゴールを抱きますね。簡単に言うと目的地です。
最近だと、オリンピックとかパラリンピックがありましたよね。例えば、そこで金メダルを取りたい、出場したい、優勝したいっていう目的地に向かっていくときに、一人で歩いていくよりも、誰かの支援があった方がより早く高くいく、というのがコーチングの前提になるんですね。
ちょっと横にずれますね。ここに1人の人がいて、ここに目的地があるわけです。これを「ゴール」や「目標」とか「夢」にしてもいい。こうなりたい、ああしたい、というものがあって、それに向かっていくんですが、私たちそれでも日常生活を歩いているじゃないですか。
毎日、朝起きて、ご飯食べて、お昼食べて、何か社会活動して、1日が終わって、また寝てって繰り返していく、これを日常っていいますね。
日常の延長線ではなくて、今ではない未来に何かを得るために活動していくっていうのがコーチングの対象になるんですけど、日常、同じことを日々繰り返していくときに、努力や情熱や覚悟って必要?
―― 必要じゃないですね。
谷口:必要ないですよね。気が付けば朝、「あー、また起きなきゃ」といって起きて、ご飯を食べて、「今日はあれをやんなきゃ」ということは思うけど、あまり情熱や覚悟や努力は必要としないですね。
これ(日常)が平坦な道だとすると、夢やゴールに向かおうとするとき、これは今の自分の今までのやり方ではできないものなんですね。なので、夢やゴールを目指すときって、努力や、未経験の体験や、不安や恐れだったり、情熱だったり、何か日常とは違うものが必要になるよね?
これを僕は坂道と言ってるんだけど、夢やゴールに向かうとき、人は坂道を上ろうとするわけですよ。これを一人で登っているときって、例えば、「マラソン始めよう」と思って、一人で始めると挫折する経験ってない?
―― あります。
谷口:つまり一人で上ると元に戻っちゃう可能性があるわけですね。例えばこの人が坂の途中に上りだしたとします。そうすると、こういうエネルギーが働くんです。
夢やゴールに向かうときに働く力とは?
谷口:これをA、これをB、これをCとします。Aが上がろうとする力、推進力です。Bがそれを抑えようとしたり、邪魔しようとするもの。Aが推進力、Bが抑止力で、Cは恒常性、ホメオスタシスです。
恒常性(ホメオスタシス)とは何かというと、人間には元に戻ろうとする力がある。一番わかりやすいのは、体温が上がると、汗をかいて体温を下げようとするじゃないですか。生物は、急激な変化は死に至るので、常に安定させよう、ふり幅をなるべく小さくさせようとするんですね。だから三日坊主になるんですよ。急に変化をしようとするとね。
では、ここがスタートでここがゴールです。坂道を上って1年がかりで何か目標を達成しようとする。そのときに、このAとBとCに大きさ、力の量があるとします。ここ(スタート)とここ(途中)とここ(途中で)で一緒だと思う?
―― それぞれのときでABCの力の大きさは違いそうですね。
谷口:違いそうですよね。なんでもそうですけど、大抵始めるときってみんなAが大きいんですよ。「頑張ろう!」とか「やるぞ!」みたいに。
途中まで行くと、「あぁだめだ・・・」とか「無理だ・・・」とか「止めちゃおうかな・・・」と言って変わるわけですね。
なので、僕たちはここにもう一人、「コーチ」という存在でこの人を支援します。この人が目標達成したい人。この人がコーチ。誰かの支援があった方がこれ(ABC)が変わるんですよ。
コーチじゃなくてもいいですよ。例えばマラソンやランニングを始めようとするときに、一人で毎朝起きて走ろうとするよりも、「じゃあ僕も同じ時間に同じ場所に集まって一緒に走るよ!」と言ってくれる誰かが伴走者としていてくれると継続しませんか?
つまり、一人でやるより誰かの支援があった方が、ここの達成は確率が上がるわけです。それをやっているのが僕たちコーチなんですね。
ではコーチは何をやっているかというと、このABCをエネルギーといっているのですが、エネルギーをマネジメントしてるんです。エネルギーマネジメントなんですよ。
Aは減っていくので、Aはなるべく減らないように、維持するか高める。Bは抑止力なので増えていく。だからBを減らそうとか少なくしようとする。そしてCは元に戻ろうとするので定点的に支えてあげようとする。
というふうに、このABCのエネルギーが最適化することを僕たちはやっているんです。これがコーチングなんです。
「コーチングはコミュニケーションです」という人が結構いるんですけど、僕は違うと言ってます。コミュニケーションはマネージメントする手段なんです。「じゃあ何でマネジメントするのか?」といったときに、コーチングコミュニケーションでマネージメントをする。
僕たちがやってるのはエネルギーマネージメント。どういうときにこれがどう変わるかっていうのを統計的に僕たちプロのコーチは知ってるんです。だから支援できるんですね。まずこれがコーチングということを知ってほしいんです。
コーチングはコミュニケーションですとか、コーチングは傾聴です、質問です、って言う人がよくいるんですけど、それはマネージメントする手段でしかない。だから、目的がどこかにいっちゃってるんですね。目的はエネルギーを最適化することです。
それを何を使ってするのかというと、それは食べ物でもないしガソリンでもない、ムチでもないけど、コミュニケーションでマネージメントをしていく。スタートしてからゴールまでのプロセスがingなんです。だからコーチングし、続けていくんですね。
まずこれが「コーチング」というものだということを覚えてほしいんです。
「カウンセリングやセラピーとは何が違うんですか?」ということをよく聞かれます。
カウンセリングやセラピーというのは、特にセラピーは治療なんです。何か問題が発生しているはずで、それを治すことなんです。カウンセリングっていうのは精神的な問題を治すことを目的として、アドバイスや支援をすること。
コーチングは夢やゴールを達成することを目的として支援やサポートをすることなんです。なので対象が全く違ってきます。これがコーチングだと思ってください。
コーチングを構成するパーツ
谷口:次に、コーチングは何でできてるのか?です。
クライアントというのは夢やゴールを達成したい人ですね。そして、コーチはそれを支援するっていう役割を担っている。
では、まず何があるかというと、クライアントとコーチは生まれたときから一緒じゃないですね。兄弟でもないし。ということは、あるクライアントがコーチを探すのか、コーチからあるクライアントを見つけるのか、初めて出会うときがあるでしょ?
出会いはここにしよう(スタートの少し前)。ここで初めて出会う。「コーチの谷口です。」「クライアントの○○です。」「これからよろしくお願いします。」みたいに、出会ったときに最初にするパーツがある。これをオリエンテーションといいます。まだ坂道は上がってないです。
オリエンテーションが終わったら、その次に、坂に上る直前にやるのがプレコーチング。コーチングのプレですから前ってことですね。
上り始めると、クライアントは日々行動を起こしてゴールに向かって前進していきますよね。ここがスタートしてからゴールまでの時間。オリンピックを目指している人なら、3年とか4年とか5年とか1年とかいろいろありますね。出版だと、半年とか1年とか。
スタートしてからゴールまでの時間の途中途中。マラソンでイメージすると、走っていると5キロ地点10キロ地点15キロ地点とか定点的に、今何キロですよとか時間が表示されてたりするんです。定点的に、ある一定期間ごとに走る人に現在地を教えるものがマラソンにはあるんですね。それと一緒です。
例えばこれが1週間なのか1カ月なのか、クライアントが行動を起こしていく、それを定点的に支えていく会話をする、これをフォローコーチングというんですね。
そして、主に最後にするんですけど、最後、ここ(夢・ゴール)に来ますよね。ここでやるのをエヴァリュエーションといいます。査定という意味です。僕たちの結果を振り返るみたいな感じ。
そして、全体を通じてすることなんですけど、メタコミュニケーションとかがある。大体これがパーツなんです。
これの中でいろんなものを僕たちは道具として使うんですけど、エネルギーマネージメントを最適化するために使うのがスキルやツールといわれるものなんです。このスキルの中にあるのが傾聴とか質問なんですよ。なので部分でしかないんです。一部でしか。
ですので、スキルだけを教わってもこの全体の構成がわからないと、結局マネージメントはできない。最適化ができない。だからコーチングってコミュニケーションですっていっちゃうとおかしくなる。エネルギーマネージメントです。
「どうやってマネージメントをしていくか?」というと、こういうステップでマネージメントしていきます。フォローはさっきのABCのエネルギーがどう変わるからどうフォローしていきます。その時に使うもののいくつかに傾聴とか質問とかがあるんですよっていうと何となく全体がわかってきません?
―― すごくわかりやすいです!
谷口:これから先に教わっちゃうからわからなくなるんです。全体像を教わって、今どこをやってるんですよっていうのを教えてもらえば、たぶんはっきりしてくるかもしれないです。
―― ありがとうございます。