プロコーチとしての質問力を高める方法とは? #107
―― これまでに『ザ・コーチTV』で公開している動画の視聴数を分析、確認したところ、「質問力」をキーワードにした動画が人気を集めていたんですね。
きっとみなさま、谷口コーチから「質問力」などのコーチングスキルについて、もっと話を聞いてみたいと思われているんじゃないかなと思いまして、今回は「質問力」をテーマに、谷口コーチにお話を伺っていきたいと思います。
実際にクライアントさんとのコーチングのセッションで、コーチの方は質問を使ってコーチングを進めていくと思います。
谷口:はい、よく使う道具というか、ツールの代表例ですね。
―― 質問を使っていく時に、谷口コーチや他のコーチからお話を伺っていると、コーチングスタイルが大きく2つあるのかなと感じました。
まず、一つ目のスタイルが、クライアントとのコーチングのセッションの時に、クライアントの方からお話を聞いて、質問をその場で即興で考えて質問をするコーチングスタイルのコーチがいらっしゃると思うんですけど、私の印象では、その即興型のコーチングスタイルをとられている方が結構多いのかなと思っています。
逆に、谷口コーチのコーチングスタイルは、質問というものを、料理人の包丁や外科医のメスなどと同じように「道具」と考えられて、毎回のコーチングセッションを戦略的に捉え、研ぎ澄まされた質問をあらかじめ準備した上で、コーチングセッションに挑むというスタイルをとられていると思います。
即興型とは真逆のスタイルだと思うんですけれども、その2つを比べた場合に、即興型のコーチングのスタイルで成功されているコーチもたくさんいらっしゃると思いますが、
その成功されているコーチと同じような質問力を身に着けるには、おそらく感性や、その場の創造性というのも関わってくるのかなと思いまして・・・。
谷口:あるでしょうね。
―― そういったコーチを同じようになりたいという場合には、なかなかその感性や創造性というものを、再現性のある形で身に付けるっていうことは、かなりハードルが高いように感じています。
谷口:まさに。ハードルが高いっていうより、1万人に1人ぐらいしか出来ないんじゃないかな。
だから、ほとんどの人は出来ない。99%の人はそれは無理!みたいな。
―― そうですよね。一方、谷口コーチのコーチングスタイルの場合、私が勝手に感じているのですが、質問というものをある意味哲学的に捉えると言いますか、質問の原理原則と言いますか、それを突き詰めて、論理的、構造的に考えられて、再現性のあるものとして追及されて来られたんじゃないかなと、すごく感じるんですね。
谷口:うれしいですね!再現性大好き!
―― そうすると、谷口コーチのコーチングスタイルの方が、谷口コーチと同じような質問のレベルを身に着けたいと思った時に、全く同じっていうのはなかなか年数が必要かも知れないですけども、近いところまで到達ということは可能なのではないかと感じております。
そこで、コーチングの哲学者、コーチング界のダ・ヴィンチとも言える谷口コーチに、
谷口:あら?誰が言ってるんだろう(笑)いいですね。うれしいです!
―― 私が感じました(笑)この前YouTubeで、料理界の哲学者とか、料理界のダ・ヴィンチといわれる方が以前いらっしゃったというのを見て、「谷口コーチはいわばもうコーチングの哲学者、コーチング界のダ・ヴィンチだな!」とすごく思いまして・・・。大げさじゃないと思うんですね。だからあえてこの言葉を使わせていただきました。
谷口:光栄です!
―― プロコーチとして、これからもっと質問力を高めたいと考えられている方に、「質問力を高める方法」について、何かアドバイスをいただけないでしょうか?
谷口:ありがとうございます。
質問力の話は、『稼げるコーチになるための虎の穴プロフェッショナル』という僕が提供してるプログラムでも、一番時間を取ってるんですね。丸々2日間分ぐらい。
コーチをやってる時に、ツールとしては多用する道具なんですね。
だから、難易度も高いですし、習得するまでには時間もかかるものだと、まず思って欲しいです。
即興型と原理原則型の違いとは?
谷口:今の、なんていうのかな、即興型と、僕みたいなのを守破離の原則型、としましょうか。
野球に例えると、僕の時代では、長嶋さんが前者、王さんとか野村さんが論理的、原理原則みたいな感じなんですね。だって長嶋さんみたいな人、二度と現れないですよね。
その後出てきている人で言うと、イチローさんは天才じゃないと、城島選手が言ってるんですね。
なぜかというと、全部、なぜこれをしているかというものが、彼の中で原理原則があるから。ルーティンが全部あるんですね。
じゃあ、今活躍している大谷翔平さんって天才型だと思います?原理型だと思います?
―― 私の勝手なイメージですけど、もちろん、ご本人の体格とかもあると思うんですけど、最近は論理的な部分もかなりあるんじゃないかなと感じてるんですけど。
谷口:僕もそう思います。なぜかというと、花巻東高校の時から、マンダラシートを彼は書いていますよね。こういうバッターになるためにはこれが必要で、そのためには何をしなきゃいけないっていうのが、全部原理原則があって、それをずーっと追及してくるんですね。
そこに、元々持っている体格だとか、彼に与えられた素材みたいなもの、あれだけの体があってとか。あの体だって、即興で出来たわけじゃなくて、意図的に全部作ってるはず。そして、やっている練習も全部ルーティンで決まってるとかっていうと、それは原則なんです。
たぶん、本当に長嶋さんみたいな人は、一世紀に1人現れるかなんです。
コーチでも、本当の意味で即興型で、それこそ圧倒的なコーチング力を表現できる人っていうのは、1万人コーチがいたら1人だと思ってます。
ただ、僕たちが使っているコミュニケーションって、コーチングは即興型っぽくっても出来ちゃうんですよ。日本語の普通の会話だから。
―― そうですね。
谷口:でも、質が全然違うんです。普通にしゃべってる会話と、プロコーチ、それもマスターレベルのコーチがしゃべる日本語は全然別物なんです。
だから僕は、普段しゃべってるものではない、プロコーチの質問を使った会話だったら、原理原則を知った方が良いんじゃないですか?っていうのが大前提ですね。
もう一つ例でいうと、僕はセールスをやってたじゃないですか。天才的に売れるセールスマンってごくわずかです。何百人いたら上位3人ぐらい。
でも、その人って、なぜできるかを説明できないんですよ。
一方、それ以外の人たちって、コツコツコツコツ先輩を見て、学んで、そして営業に行く前には全部台本を書いて、そしてそれを修正して、何回も修正して、赤ペンを入れて、みたいにして、ボロボロになるまで準備をして取り組んでる人なんですね。
だから、コーチの方も、是非そういった原理原則を知って、努力をしていって身に付けるという道をまず選んでほしいっていうのが一つです。
じゃあ、どうやるか。僕がどうやったか?というのをお伝えします。
質問力を磨くためにやったこと
谷口:まず、質問というのは一つのツールだと僕は思っています。
世の中には質問文が、英語でいうとセンテンス、Q.__?で終わる質問文が、ヤマのように落ちてるんですよ。日常に。
例えば、コーチを勉強する人は、コーチングの勉強会とかトレーニングとかに行くと思うんですが、一日行ったらヤマのようにそこには質問文があります。だからそれがまずあるということですね。
次に、質問力っていう本を買うと、まずそのタイトルの本がいっぱい出ていますよね。すると、そこにも有効な質問文とかも出てくるじゃないですか。
また、チャットで何かを調べたり、検索したりすると、質問も出てきます。
本を読んだら、質問文っていっぱい出てきます。
人と話していても質問っていっぱいある。
そこで、僕はその質問のセンテンス、文章だけを拾い集めたんですよ。
質問を集める
谷口:どうしたかと言うと、なんでもいいんですが、例えば名刺カードみたいなのがあって、この中には白紙のカードいっぱい入っています。これをとにかく持ち歩いているんです。
そして、本を読んだり、勉強会に行って、この質問いいなとか、コーチングのトレーニングでは「質問考えましょう」なんてあるじゃないですか。そうするとこれに、ワンセンテンス書くんです、質問を。「いつまでにどういう状態になればいいですか?」
こういうものをいっぱい集めました。だからまず「集める」ですね。質問の収集家になる。
そしてそれをグルーピングしました。
質問をグルーピングする
谷口:フォルダーって言ったらわかるでしょ?例えば、ゴールを明確にする、現状を明確にする、ギャップを明確にする、というフォルダーを作ったんです。その目的で僕たちは質問をするので。
そして集めたものを、そのフォルダーに取りあえず、「これはゴールがはっきりするかなぁ」とかって分けていくんです。このように集める、選別すると、大体僕は一番多い時で、600センテンス以上集まりました。
次に、その中から、コーチング練習したり、コーチングをするときに、今日のクライアントのためにって選ぶ。そして、色々自分が集めたものを使ってみる。
集めた質問を使ってみると?
谷口:そうすると、検証できますよね。これ良いと思ったけど全然滑るなぁとか、これ全然気づきが起きないなぁとか、明確にならないなぁ、というのが分かってきますよね。
そうすると、この中から選別が始まるんですよ。
まず、集めました、グループに分けました、使ってみます、良いの良くないのが分かってくる、あんまり良くないを今度は捨てていくんです。
選別していくと、ヒットする質問が残ってくるんですね。
そしてそれを、なんでだろう?って分析するんです。何でこの質問は良いんだろう?って。そうすると、分かってくる。
何が分かってきたかっていうと、その質問をすることによって、クライアントがどこに意識が向くかのターゲットが必ず入ってるんですよ、文章の中に。これを視点って言います。視点を指す名詞って僕は言ってるんですけど。
で、それに対して疑問詞ありますよね。5W1Hとか。というのがくっついているのと、あと動詞があるんです。
「はっきりするでしょう」とか、「明確になりますか」とかいうのがくっついてるんですね。
「あ、これの組合わせなんだ!」と思ったんですよ。
いい質問文は、何と何と何でできてるのかが分かってきたんです。
大谷さんがいいバッターっていうのは何と何と何でできてて、というのがわかったようなものなんですね。
効果的な質問っていうのは、この名詞にこの疑問詞とこの動詞で作ればいいんだっていうのが分かってきたんです。効果というのは、ある期待した結果が出るっていうことです。
だから、コーチがするときの質問は、どういうことがクライアントに起こることを期待して質問するかが前提にないとダメなんです。
これによって視点が広がるとか、視点が変わるとか。じゃあ視点が変わるという目的の効果を生む質問は?って今度考えるようになったんです。
それで、それがよりよい質問集になっていって、今度は、それをどういう流れで、どの質問の順番ですると、例えば会話の流れが一番効果的に今日の会話の流れのゴールにたどり着くかっていうのを考えるんです。
それを、考えるようになったので、最初はカードだったものが、僕の場合には一つのシートになっています。
虎プロでも、オリエンテーションで使える質問集とか、何とかで使える質問集とかいうように、全部そういう状態で出来上がったものを、この順番で並べるといい、というのまで出来たんです。だからこれ(カード)が、もういらなくなったんです。
このやり方をするのが一つ。
ただ、これ僕20年かかったんです。だったら、僕が訳の分かんない質問を集めて整理整頓したのを、今度は僕が作った、既に整理整頓されて検証された質問を、早く使いこなせるようになったらいいと思いません?
まずは先人たちの考えた質問を使いこなせるようになろう
谷口:例えば、道といわれるものがありますよね。茶道でも剣道でも華道でも柔道でも。最初、創設されたというか始まった頃は、みんな手さぐりで、その道の達人たちは、最初は考えたじゃないですか。
今みたいに原理原則が分かってきて、華道とは、茶道とは、こうあるもんだっていうのが分かってくると、それが伝承できるようになるわけですよね。師匠になったりして。
だから、コーチング道も一緒なんじゃないかなと思います。
先人がやってきたもの。今から柔道習おうと思った時に、先人が明確にしてきた原理原則じゃなくて、真っ新から自分流の柔道作らないよね?
最初は、白帯から始まって黒帯になって、それは先人たちが原理原則である程度作り上げてきたもの。
でも、ある一定のレベルになると、さらに自分のオリジナルっていう道を究めたいっていうので、それはそこからアレンジしていけばいい。
だから、昔の人、守破離って言ったじゃない。同じだと思うんだよなぁ。
だから、コーチ力、質問力を上げたければ、一旦20年かけて僕が作ったものを、何回も何回も使えば、「門前の小僧習わぬ経を読む」じゃないけど、その文章の言い方に慣れてくる。で、それからオリジナルを作って行った方が早いんじゃないかなぁって。
―― そうですね。全ての道はそうですよね。
谷口:道といわれるものはね。だから僕は昔、先輩に言われたんです。その人が「コーチング道」って言ったんですけど。道。「コーチング道、入り口あって出口なし」ずーっと追求しなきゃいけないよ、みたいな。
「質問力」というものでいったら、これはやっぱり、ある効果が検証された道具。で、それをまず先人たちが使ってるんだったら、集めて、試してみて、自分で検証してみて、納得いくものを作る。
天才っていうのは、降りてくるわけですよ。ひらめく。でも、それは僕は本当に、1万人に1人だと思う。
だったら、王さんとか野村さんとかイチローさんとか大谷翔平さんと同じように、先人たちのやってることを分析し、そこに仮説を立てて検証してやった方が、たぶん早く上手くいくと思います。これで答えになったかな?
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