プロコーチとして活躍し続けるには? #10

最終更新日:2021年2月9日

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谷口コーチに質問する 

プロコーチとして活躍し続けるには?

── 谷口さんはもう17年にわたってプロコーチとして活躍をされていますが、活躍し続けることができている理由、その中でもこれがすごく大事、これを大切にしたきた、というものがあれば教えてください。

谷口:真髄をついてくるね!いくつか思い浮かぶものがあるので、思いついた順番でいきましょうか。

#1. プロ意識を持つ

谷口:まず、一つはプロフェッショナリズム、プロ意識かな。一般論で言うと、日本の社会人ってプロ意識を持って仕事している人、たぶん少ないと思う。例えばお仕事なんですか?って聞くと、日本の人って勤め先を言いますよね。でも海外の人だと自分がやっている仕事を言うはずなんです。例えば、「お仕事なんですか?」って聞いたら、「セールスマンです」とか言うと思うんです。ということはプロのセールスマンの意識がある。例えば日本で管理職の人に「お仕事なんですか?」って聞いても、「マネージメントです」って言わないと思う。「~に勤めてます」とか業界を言うかな?「製造業です」とか。この意識の違いはあると思う。

2007年頃から「虎の穴プロフェッショナル」という、プロのコーチを育成したくてプロにこだわったものをやりだしたんですが、その理由は、プロ意識を持って本当にやっている人がちょっと少ないかなって思ったのが一つ。僕はプロ、プロフェッショナルである、プロフェッショナルって専門家で、その専門領域に特化した知識や能力があることが一つで、それで生業(なりわい)、生きていく。簡単に言うと世の中から報酬を得ている。報酬を得るっていうことは世の中にちゃんと対価に値するサービスや何か価値を提供しているというのがプロだと思うんです。そのプロ意識を持ったコーチを育てたいと思ったんです。

さっきの答えで言うと、もし成功したと思ってくれているとしたら、最初から僕はプロのコーチだという意識を持っていたというのが一つかな。

── それは最初から?

谷口:最初から持っていました。その前はセールスマンをやっていたんですけど、営業、セールスのプロフェッショナルになる。なので、僕は部下とか若手には「プロのセールスマンになりなさい」っていう言い方をしていました。プロとは?っていうのを追求した。それがまず一つかな。

プロフェッショナルに求められる5つの要素

谷口:僕の中の「プロ論」っていうのがある。プロとは専門家、それを職業にしている人って辞書で調べると出てくる。まず専門家って何かというと、専門領域の知識を豊富に持っている。お医者さんだったら医学というものの知識を持っているわけですね。税理士さんだったら税務の知識を持っている。それは人よりも。

なので、

1)専門領域の知識を持っている。

2)その専門領域で、価値を提供するスキルがある、能力・技術を有している。

3)そのサービスを提供するのに必要な道具やツールを持っている。

この3つがまず条件。プラス、よく絵で描くんですが、手元に紙ありますか?

そこに、左側に丸を重なるように3つ書いて、その〇の中に知識・スキル・ツール(道具)。これ3つの条件。

プラス、〇を1個書いて、

4)実績

プラス、〇をもう1個書いて、

5)人格

これがプロですよ。専門領域の知識・スキル・道具があり、専門領域でそれの実績を持っていて、その専門家ですからプロとして社会に信用・信頼される人格を有している。

僕は全部これに当てはめているんです。お医者さん当てはまるでしょ?医学の知識、例えば問診をしたり診断をしたり、外科だったら執刀する技術、それに必要な調べる道具、メスとか要るわけです。で、実績が一回もない人には切ってほしくないよね?出来れば何人か切ってますか?って聞きたい。

── そうですね、経験豊富な方がいいですよね(笑)

谷口:できればね。でもどんなに経験豊富なお医者さんでも、人格が疑わしかったらそれはちょっと切ってほしくないって思いません?なのでここに重要度がある、僕にとって。セールスマンも全部当てはまる、弁護士も当てはまる、こういうのがプロフェッショナル。ってことは、マネージャーもこれが全部整うとプロのマネージャーになるし、人事という仕事も全部あてはまる、経理も当てはまる。

だからどんな仕事を自分がしててもその専門家としてのプロの意識と、この5つの要素を常に高め続ける努力、それをしてきたかなと思う。

代表的なのが、僕、料理人だったから、料理人もこれに当てはまるでしょ。料理や営業や食材の知識って必要でしょ?それを料理する火を通したり切ったりする技術、それと包丁とかいろんな道具があるでしょ?そしていろんな料理を作ったりサービスをしたり失敗したりする実績。美味しいもので多くの人を幸せにしたいとか、そういった信念がある人格、になるじゃないですか。料理人ってね、包丁とか結構こだわる。いい包丁使うと、お刺身が美味しくなるんですね。

#2. 道具を磨き続ける

谷口:僕はコーチになった時に多くのコーチが道具を磨いてないっていうのがわかった。例えば美穂さん僕に質問してくれてますでしょ?コーチも質問をよくするんですけど、そうすると、質問文とか質問は道具なんです。

── 質問は道具!

谷口:同じコーチでもすごく切れ味のいい質問をするコーチと、なんだかわけがわからない質問をする人がいる。ってことは、質問という道具を磨いていないってこと。

なぜかというと、プロのコーチが使う質問って、僕たちが普段日常会話でしてる質問と圧倒的な質が違うんです。すごい研ぎ澄まされて考えられた質問なんですよ。それをアマチュアのコーチって思いつきで質問しちゃうんです。なので、僕はこういう「問い」とか「アセスメント」、日本語でいうとチェックリストかな?でも判定するものじゃなくて、自覚を促すもの。

こういうものを徹底的に僕は磨いて作り上げて整えてるんです。

── コーチの道具はこれなんですね。

谷口:もっといっぱいあるんですよ。僕がこれに気がついたエピソードがあるんだけど聞きたい?

── ぜひお願いします。

谷口:僕が駆け出しのころ、世界のいろんなコーチが集まるカンファレンスみたいなのに出たんですね、その時に、ヨーロッパだったかな?プロコーチが講演をしてくれたんです。そのコーチは士業専門のコーチだった。税理士とか弁護士とか公認会計士とかの専門の。だからすごく専門領域に特化してる。

そのコーチが言ったのは、日本のコーチはこういったツールが貧弱だっていうんです。アセスメントとかそういうものなんですけど、ヨーロッパのコーチは、その士業に特化したコーチングで使うアセスメントが僕は50種類あるって言うんです。50個道具を持っているんです。

その時僕はほとんどなかった。それがショックだった。やっぱりプロ意識なんですね。そのヨーロッパのコーチはプロとして士業をコーチする時は最低限これだけくらいのツールは必要だよと。そこから僕は自分のオリジナルのツールを作り出したんです。それを磨くとか、ツールを整えるとか、ブラッシュアップするとかを怠っているコーチが多いかな?

── 一つの質問も道具であって、料理人が包丁を研いで切れ味を抜群にしていつも整えているように、そのコーチの方は一つの質問も、いつもどういう風にどんな質問ならクライアントに届くかとか、そういったことを踏まえて磨き続けてブラッシュアップしているんですね。

谷口:僕と同じ資格を持つマスターレベルのコーチたちに聞くと、エグゼクティブとか経営者とかにコーチングする時に、コーチングする前に準備をすごくします。今日はこのクライアントの成果・成長のためにどういう質問をすると有効なんだろうか、っていう道具を先にコーチングの前に用意しておく。だから、思いつきで質問してないんです。

── それは莫大な準備の量があるっていうことですね。

谷口:この質問をすると有効的だろうというものを、「道具」を用意しているわけです。料理人だって料理する前に包丁からフライパンから全部道具を用意しているんだけど、なんちゃってコーチは道具がない。だから思いつきでしゃべっている。そこの違いもあるかな。

── 思いつきってそういうことですもんね。

谷口:だから会話の質が高くない。特にマスターコーチとかプロフェッショナルコーチって短い時間の会話で最大の成果をあげるんですね。ということは有効でない会話をしている時間が無駄なわけです。だからもし30分経営者からコーチングの時間をもらったとしたら、この30分の時間で一番有効な会話の時間にしなきゃいけないという責任があるんですね。すごい準備をする。そういう違いがあるかな。

── それは大きな違いですね。

谷口:プロフェッショナル意識っていうことと、プロに必要な5つの要素を磨き高め続けているっていうのが、コーチとして僕がもしうまくいってるとしたら、要因だと思う。

── その2つを最初から意識してやり続けてきたっていうことですね。素晴らしい、やっぱり理由があるんですね。

谷口:それが理由だと、僕は思うんですけどね。

── それだけ意識してやり続けたら活躍されるはずですね。

#3. 量にこだわる 数はいずれ質に転化する

谷口:もうひとついい? スキルを磨くわけですけど、プロでやっていこうと思っていても、最初はどうしても未熟です。最初から卓越した技術を持っている専門家・プロフェッショナルなんていないじゃないですか。お医者さんだって失敗するわけですよ。プロ野球選手やプロサッカー選手だって最初は未熟でしょ?コーチングでもなんでもいいんですけど、やっぱりどうしても最初からうまくやろうとして、失敗を恐れて数をこなさない。僕は料理人でもあったので、数はいずれ質に転化するっていうのを信じて。どれだけいっぱいやったかが、どれだけ上手くなるかと同じだと思っているんです。

── 「数はいずれ質に転化する」、いい言葉ですね。

谷口:宮本武蔵の『五輪の書』に同じことが書いてあるんです。意味は、千時間練習するのを「鍛」といい、万時間練習するのを「練」という。これで「鍛練」という。その専門領域の実績・実践を1000時間やるとプロの入り口なんですって。料理人も1000個オムレツを作るとやっと人前に出せるようになる。でも10000個作ったら世界に一つとない一番上手いオムレツができる。世の中にそういわれることいっぱいあるんです。

僕がマスターコーチを目指したのは、目的はこの数なんです。どういうことかというと国際コーチ連盟の資格条件の中に「コーチングの実践時間」というのが決められているんです。今は基準が変わったんで、今は違うんですけど、僕の時は2500時間のコーチング実績があると、マスターを受ける要件がつく。これ結構大変!2500時間だから。

── 2500時間と言ったら相当ですね。

谷口:たぶん専門家で職業でやっても10年~15年くらいは優にかかる。よく、「資格があるからプロとか専門家じゃないよね」っていうんですけど、資格はそれだけ実践をしたという証明になるわけです。ただのペーパーテストじゃないから。簡単に言えばパイロットの飛行時間と一緒。どんなに優秀で、素晴らしい大学出て試験を100点とっても一度も操縦したことないパイロット(の飛行機に)乗る?乗らないよね?

僕がなぜマスターを目指したかっていうと、なるべく実践を積みたかった、そのためのゴールにしたんです。誰よりも早く実践を積もうと思って、結果的に最短でマスターを取れるようになったんです。とにかく実践の数にはこだわる。

── 実践の数にこだわる。

谷口:だからわかったことがいっぱいあるんです。やってみてわかったことが。

── 失敗を恐れない、そういう気持ちでずっと最初から挑まれてきたわけですよね。

谷口:そうですね。まあでもそれはよかったですよ。僕は料理人とかセールスとかいろんなプロの世界にいて、セールスなんてすごいよね。100件はNOで、1件YESだから。恐れないっていうよりも、失敗っていう意味づけにしてない、ただNOだから。というので、分数で考える。例えば、1%の成功率っていったらいいかな?まあ簡単に言うと、宝くじに当たるとしたら、10枚じゃ当たんないよね?

── 当たらないですね。

谷口:100枚買ってやっと1枚でしょ。そしたら、分母を1000にしたら10になる。分母を10000にしたら100になりますよね?分数で考えるといっぱいやるってことは、上手くいく確率が上がるわけじゃないですか。だから分数で考えているかな?

だから失敗を恐れないというよりも、分母を多くすると成功確率が上がるということ。失敗はあまり気分のいいもんじゃないけどね。まぁ、慣れますけどね。

あとね、上手くいってる時って人間って学習しないんですよ。挫折とか失敗の時、最大の学習をします。ということは失敗が多いってことはすごく成長してるってことなんです。

── (失敗している数は)学習してる数なんですね。

谷口:お笑い芸人だと失敗したらネタだけど、僕たちは上手くいかなかったことは「学習」に意味を変えてるかな。だから3つ目は量にこだわるです。「鍛練」=千の時間と万の時間。

── 1000時間ってすごい時間ですけど、1000時間でもプロの入り口。「数はいずれ質に転化していく」という言葉は覚えておくと、また一つ分母を増やしたよ、という励みになりますよね。

谷口:僕ね、ずっと付けているんです。コーチ始めた時からExcelの中に、誰に何時間コーチングをしたっていう累計を毎月やっていますし、コーチ以外に研修講師とか研修コーチなんかもやっているけど、これも、登壇した数と影響した人数はずっと毎月ちゃんと累計・累積をつけて足していっているんです。だから17年って結構な人数です。

── すごい数ですよね。「コーチングの魅力って何ですか?」ってお聞きした時に「自己成長を認識できる」っておっしゃったんですけど、まさにこの数はこれだけ自分が成長してきたっていうのを目に見えて確認できるものになってますね。

谷口:すごいセルフエフィカシー(自己効力感)は上がります、毎月見ると。累計で何時間になったかな?とか、何人になったかな?とか。

── そうやって分母を増やして、打率に当てはめていったらヒットする確率もどんどん大きく量が増えていっているってことですもんね。その積み重ねの17年が今の谷口さんを作ってるんだなってよくわかりました。

谷口:僕の人生では一番長い職業ですよ。飽きっぽいから(笑)。だからコーチングの魅力ってすごいなって。こんだけ飽きっぽい僕がまだ続けてるっていうのは。

「入り口あって出口なし」コーチング道は深い!

谷口:僕がコーチング始めた時に、先輩コーチが面白いこと言ったんですよ。今でも覚えてるんですけど、コーチング道。コーチングの道って「道」ですね。茶道とか剣道とか華道とか。

『コーチング道、入り口あって出口なし』入ったら永遠に追及するぐらい深いものだよって。

未だに出口ないですけど。この仕事って体力じゃないので、たぶん70歳、80歳になった時に自分がどんなコーチになっているか自分でも楽しみ。

── 楽しみですよね。本当にコーチってすごく面白い職業、面白いし、深い。プロ意識を持ったコーチの方が増えいくといいですよね。

谷口:いいと思う。日本は、ちょっと元気がない時代があったんで、これからまた世界のリーダーになっていくような民族・民だと僕は思うので、そういう時にやっぱり日本人のリーダーや日本人の起業家たちをどんどんパートナーとして、一緒に夢を追いかけるプロのコーチが増えたらまた日本は元気になるんじゃないかな!

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